一 | 問一A 問二A 問三A 問四B 問五C |
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二 | 問一 すべてA 問二B 問三A |
A:開成中を志望するレベルなら確実に得点に結び付けなければいけないレベル
B:差がつく問題 ⇒ 合否を分けた一題
C:開成中を志望するレベルでも、得点に結びつけるのは難しい問題
今年の開成中は、解答形式に変更があり、2010年以降は全く字数制限のなかった記述問題が、全て字数制限つきとなりました。ただし、近年の解答用紙もマス目がなかったとはいえ、行数は決まっており、一行に書けるのは35字以内が常識の範囲内と言えたので、頻出の2行記述であれば最大70字程度であり、これは今年の字数制限と合致します。したがって、求められている記述解答の性質は変わっておらず、より明確化されたと言えるかもしれません。字数を気にしなければいけないことに戸惑ったお子さんもいるでしょうが、50字以上70字以内などとかなりの幅が設けられているので、解答形式のせいで難化したとは言えないでしょう。
今回の形式が今後踏襲されるかはわかりませんが、来年以降受験予定のみなさんが2010~2020年の過去問に取り組む際には、1行を25字以上35字以内と計算してマス目を使い練習してみると良いかもしれません。どちらの形式にも対応でき、併願校対策にもなるからです。
いずれにしても、開成中で一貫して求められている力は、設問で試されているポイントをおさえて簡潔にまとめる力だと言えます。短文記述ではないですが、欠かせないポイントを盛り込もうと思ったら、類義表現を重ねたり、保険をかけて多めに要素を盛り込んだりする余裕は全くなく、絶妙な字数設定と言えるのではないでしょうか。
今年度の素材文については、物語文の方が取り組みにくかったと言えるでしょう。ストーリー展開はわかりやすかったものの、方言がやや読みにくいことに加え、主人公の心情が外部に投影されつつ変化していくさまを丹念に追わなければならない面倒さがあったのではないでしょうか。論説文(論説的随筆文)の方は標準的な内容で、設問も比較的素直でした。
合否を分けた一題以外は、特徴的な問題や解きにくい問題に絞って簡単にコメントしていきます。
心情の理由説明問題では、自分の書いた理由を傍線部につなげてみて不自然でないかを確認することが大切です。靴が物理的に変化したわけではないのに昨日までと違って見えているのですから、主人公の心理変化が投影されているという典型的なパターンです。履きふるした靴をより一層古く汚く見せたのは、心の中にある何なのか、ここまでの文脈から考えます。
いわゆる心情変化問題ですが、心情変化問題の原則的な書き方に沿って「前の心情→きっかけ→後の心情」という形式で書こうとすると、字数が足りなくなります。ここで問われているのは、自分の気持ちをうまく伝えられず意図したのとは違う結果を生んでしまうという、皮肉な事態への理解であり、難関校では頻出です。このポイントが書けていれば、心情変化の公式的な形が崩れても問題ないと思われます。
「ひと続きの二文」を抜き出させる問題。「気の重さがわかる」ひと続きの二文を選ぶということは、“二文とも”気の重さを表していなければいけません。さらに、気の「重さ」がわかる文であって、気持ち自体を詳しく書いてある文を選ぶわけではないことに注意しなければいけません。身体表現などを通して象徴的に「重さ」が伝わってくるものを選ぶことになります。これらの点を意識しないで探すと、かなり苦戦することが予想されます。一般的に抜き出し問題は、傍線部から遠いところから探さねばならない面倒さがあるので、内容やキーワードで場所を絞るとともに、問いで使われている言葉そのものにこだわり、それを手がかりに探すことが肝要です。
本文に直接の手がかりがないため難しい問題でした。ただし、「なぜですか」ではなく「なぜだと考えられますか」という問い方(いわゆる「類推問題」)なので、作問者の想定する解答の方向が一通りではないことが予測できます。つまり、本文から推測される範囲内で筋が通っている解答ならば、用意された模範解答と異なっても点がもらえるということです。筋を通すために抑えておくべき事実として外せないのは、以下の六つでしょう。
①主人公は和子に対して、おしゃれで「はなやいだ」印象を持っていた。②自分の妬みが発端で和子のズックを流してしまったことに罪悪感を覚えている。③和子は片方が素足になり、汗ばんでいる。④その素足に自分のボロのズックを履かせようと申し出た。⑤和子の口もとがすねたように、まんなかでつぼまった。⑥和子は自分で歩き始めてからはずっと無言である。
以上から想定される解答の方向性としては、以下のようなものがあるでしょう。
一つは、和子に罪悪感を投影して見るのは初めてであり、彼女の沈黙と口もとの様子などが自分への無言の責めであるように感じられるため、いつものおしゃれではなやいだ雰囲気とは程遠い様子になってしまったことが強調されて、まるで見知らぬ人のように感じられるという方向。これが最もオーソドックスな読み方でしょう。
もう一つは、おしゃれではなやいだ雰囲気で自分とは違う世界の存在と思っていた和子が、むしろ自分に近しい存在に変わったように感じられたという方向。これは③や④の要素をクローズアップした読み方です。
さらには、⑤に加えて傍線部直後の象徴的な描写(ススキの穂が~)を念頭に置くと、和子の女性的な魅力を感じて淡い恋心を抱いた方向性もあるかもしれません。以前から好意を持ち意識していたことは伺えますが、それが実際の恋愛対象に変わったということです。しかし、傍線部直後は段落が変わり、一瞬ではありますが時が後になっていますし、最後の数行でまた罪意識を再確認していることからも、この読みはやや危険だと思われます。
繰り返しになりますが、この手の「類推問題」は、筋を通せば点がもらいやすい問題でもあるので、あきらめずに何かしらの解答を書いてみるようにしましょう。
合否を分けた一題として以下で取り上げます。
2021年度の合否を分けた一題としては、大問二の問二が最もふさわしいと考えます。大問一の問五は、難しい上に解釈の幅が認められるためかえって差がつきにくいと考えられますし、大問一の問三の抜き出し問題は解答が割れるところでしょうが、配点が高くないと予想されます。それに対して本問は、正統派の比喩説明問題であり難易度が高いとは言えないものの、傍線部の比喩の一つ一つを適切に言い換えることができたかどうかで、かなりの差がついたと思われます。比喩表現の連想力というよりも、傍線部付近に限らない本文全体を踏まえた解釈の力と、慣用句などの知識をあわせた総合力が試されます。
それでは、解法と採点ポイントを以下に示します。
まず、傍線部は述語部分のみなので、主語を確認します。傍線部を含む一文から、直接の主語は「大半の人」であることがわかります。彼らは、この一文と直前の文から、漠然とした理由でチェーン店などの仕事を選んだ人であり、明確な目的意識を持って働く一部の人に対比されています。更にこの段落の最初までさかのぼると、「本質的なことを考えずに、群れのなかをうまく泳ぎきることだけにエネルギーを注いでしまう」人であるとわかります。「群れのなかをうまく泳ぐ」というのは魚になぞらえた表現ですから、「定置網にはまる」という傍線部の一つ目の比喩とつながっています。
ここで、「定置網」とは定まったルートを泳ぐ魚の群れを捕獲する網ですから、前段落までの本文表現も使いながら「定置網にはまる」を解釈すると、自分の頭で考えず、「みんながしているから」(←本文に二回も出てくる表現)という理由で「常識や伝統」にとらわれて多くの人と同じような選択をし、「人生を好転させることがむずかしい」状態に陥っていることだと言えます。字数的にこれらを全て書くことはできませんから、抽象化してまとめれば、「大勢の中の一人として生きるあり方に陥っている」とか、「集団の中の大多数と同じような選択をするはめになる」などとなるでしょう。(以上の部分を①とする)
次に、「うさぎ跳び」については、何度か本文に出てきており、特に第二段落で「意味のない努力」の例として出されていることがわかります。(以上②)
最後に、「出る杭に嫉妬する」については、「出る杭はうたれる」という諺を当然知っていることが前提です。能力があり目立つ人間は憎まれたり邪魔されたりするものだという意味ですが、この文章で挙げられている「永田氏」の例も考え合わせると、「出る杭」とは、常識や伝統にとらわれず、自分の力で本質的なことを考えて試行錯誤し、成功する人であると言えるでしょう。(以上③)
以上をまとめると、例えば以下のようになるでしょう。
解答例1
単なる大勢の中の一人として生きる境遇に陥り①、重要でないことにエネルギーを注ぎ②、本質的なことを考えて行動し成功している人③(に嫉妬しているということ。)
解答例2
集団の中の大多数と同じような選択をするはめになり①、無意味な努力をしながら②、自分の頭で考えて試行錯誤し成功している人③(に嫉妬しているということ。)