麻布中の国語の入試問題は完成度が高いとよく言われる。
では、どういう点がよいのだろうか。
まず、題材選びが工夫されているという点である。
麻布の国語の入試問題は、基本的に物語文である。中学入試では、論説文や随筆文が主流になりつつある。武蔵中も物語文だったが、最近は随筆文などが多くなっている。このような傾向がある中で、物語文を題材として選び続ける姿勢に、麻布中の入試問題へのポリシーを感じる。しかも、その題材のほとんどが哲学的テーマを扱っている。
生徒に読みやすい題材をわざわざ選び、文章や設問のつながりを通して、深く考えさせるという点が高い評価を生んでいるのであろう。
昨今、他の御三家(女子も含む)や難関校が文章の難易度を上げていっているが、そのような路線とは一線を画す麻布の姿勢は、今後も続くと思われる。
また、「つながり」を意識した設問構成になっている点も麻布中の特徴である。
桜蔭や開成、駒場東邦なども設問のつながりを意識させる構成になっているが、麻布はそれを徹底しているし、実はかなり昔から(昭和の時代)、この手法を取り入れている。(開成や桜蔭はここ最近である。)
ただ個人的な見解を述べさせていただくなら、近年は記述問題が多くなっているので、選択肢を増やしてほしいと思う。確かに、麻布中は中学卒業時に論文を書かせるほど、徹底的に書かせる学校である。しかし記述ばかりだと、麻布の入試問題の魅力が半減してしまう。なぜなら、麻布中の入試問題の魅力は、この選択肢にあるからだ。昔の麻布の選択肢の問題は、次の設問の手がかりになるだけでなく、選択肢の文が2,3行にわたる長文で、しっかり吟味しないと間違ってしまうという、かなり高度な問題であった。
だから、それがなくなってしまうのは、やや物足りなさを感じてしまう。
まあ個人的な見解はともかく、このように工夫された入試問題なので、恐らく合格ラインも60点中36~40点くらいだろう。私の上司だった人が、理想のテストとして挙げていたのは、100点満点なら平均点が60点くらいのテストだと言っていた。つまり、難問(=解けない問題)ばかりでなく、しっかり段取りを踏んで考えれば解ける問題を、いかにそろえるかが大切だということだそうだ。麻布中の合格ラインもこれに近いことから、理想的な入試問題の一つといえるかもしれない。
では、これから麻布中の傾向を文章と設問に分けて、具体的に説明していこう。
随筆文が2題出題された年もあったが、基本的には物語文一題である。
字数は平均して6000字後半から7000字後半と、かなりの長文である。
ただ2010年度は5000字程度と、字数が減少した。題材の切り方が難しかったのだろう。
題材の内容は少年の成長を扱ったものが多いが、最近は多様化してきていて、女の子の自立を扱ったもの(平成20年)や、寓話(平成22年)なども出題されている。
ただ基本は、自立、自由、自分探しなど哲学的なテーマが描かれている文章を扱っている。
例えば平成22年は、集団=社会的制約があるものと、個=自由な存在という対照的なものを比較しながら、本当の自由とは何かということを考えさせるものであった。
(この文章では、本当の自由というものは、社会にいる限り存在しない。社会にいる限りは、個人は何かしらの制約を受けるものであるということを主人公の「牛」の悲哀を通して描いているように思える。これは、政治哲学に通ずるテーマであろう。)
また、私小説風の文章が好まれ、家庭環境や人物関係が複雑なものが題材としてよく出題される。
*2011年は、井上ひさしさんを追悼する意味なのか、以前麻布中で出題された井上ひさしさんの作品が、ほとんどそのまま出題された。扱われた場面もほとんど同じである。従って2011年度に限っては、国語ではかなりの高得点が出ているのではないかと思われる。言い換えれば、国語の力があまりなくても合格できた可能性が高いということである。
文章題一題構成で、漢字の書き取り問題が必ず出題される。
設問数は12から14問程度で、80パーセント以上が記述問題である。(選択肢問題などは減少傾向にある。)
記述の字数はほとんどが30字から60字程度だが、最後に100字を超える大型の記述問題がある。この問題は主題を問うもので、麻布の国語の入試問題の代名詞ともいえる問題だ。駒場東邦中も最後に大型記述を出題するが、難易度は麻布中の方が高いだろう。
また、この30~60字程度の記述問題も侮れない。さきほど述べたように、設問がつながっているので、これらの記述の正答率が、大型記述の正答のカギを握っているし、解答に対する字数がタイトなので、余計な説明ができない。したがって入試までに、どれぐらい生徒が自分の答案を推敲してきたかが問われるのである。
設問内容は、ほとんどが心情を問うものだが、比喩表現の意味や、情景描写の意味を問うものもある。もちろん前述したとおり、最後には主題を問う記述問題が用意されている。
また麻布中は入試問題の最後に、主題を考えさせる問題のほかに、その作品の中で象徴的なもの=風景や動植物を取り上げ、それが暗示しているものを問う問題を出題する傾向がる。
以上、簡単に文章と設問の傾向について述べてきたが、これからこの傾向を踏まえて具体的な対策について説明していこうと思う。